「ヒトの”宿命”や”運命”は確かにあるようなんですけど、」
占い師は話した。
「”宿命”というもの自体、かなりおおまかな枠組みで、その中を”運命”は比較的自由に転がってるようなのです。
そしてこの転がり方にどうやら”そのヒトの意志”が影響できるようなんですね。」
ここでちょっと占い師は不安になった。
さてこの話、相手にちゃんと伝わったかな?
もっともこれはいつも感じることで、今回の相手が少女だったからってわけではないのだが。。
少女が尋ねてきた。
「それは、私の運命は、私のおもいどおりになるってこと?」
占い師はちょっと困った。
「・・・・まあ、ある程度。」
とにかく占い師は続けることにする。
「でも”意志”は時としてかなりな力を発揮するようなので、重要な要素だと私は思うのです。」
さて、伝わったかなぁ。
「・・どうしたらいい?」
少女が言葉をだした。
ああ、そうだった と占い師は思う。
占いに来る客は大体がそうなのだ。
自分の答えではなく”正しい答え”を求めてくる。 
”正しい”というものは、”ものさし”によって常に変化する。 
けど、時に人はそのことを忘れるのだ。

「・・・たい。」

少女の言葉は続いていた。
占い師は聞きそびれたことに気がつきあわてた。
「。。え?」
聞き返す占い師に、少女はいま少しはっきりとコトバを送り直す。

「私、おかあさんの機嫌がよくて、カレがヤサシクなるようにしたい。」
少女はまっすぐ占い師をみていた。

「そうですか。・・・そうですね。」
少女はコクンと首を振った。
「じゃあ・・、様子をみてみますか?」
少女の瞳が大きくなる。
占い師の言葉の意味がわからなかったようだ。
「もうじきですね、なにか”起こり”そうなんですよ。」
占い師は並んでいる転がる輪と古代ローマの戦車のカードを眺めながら少女に告げた。、
「なにか、それもあなたではない外からの、激しい力のようなものが働いて、事態が変わりそうなんです。」
「・・で、どうなるの?」
少女は明らかに不安になったようだ。
占い師は最期のカードをもう一度指す。水を移し替えてる女性だ。
「・・迎えるのは静かな日々 かもしれません」
華やかなメロディが一瞬響き、そして止まった。
少女があわててランドセルをさぐる。
携帯電話の着信音だ。
「・・・いかなくちゃ。!」
ピンク色の携帯電話は、発信者を少女に告げている。

ところが立ち上がった少女は、今度は思いつめたような瞳で占い師をみる。
一瞬、占い師はとまどった。が、振り向いてみてすぐに理解できた。
砂時計の粒がとうに落ちきっていたのだ。
占い師は澄ましたカオをつくってみせて、少女に言うことにした。
「ちょうど6分です。」

少女がまた顔一杯に笑った。小学生の顔だった。
そして、これもまたランドセルの中から探り出した、ウサギのような生き物の形のサイフから100円玉を2枚だして、カードの並ぶテーブルに置くと、跳ねるようにでていってしまった。

占い師は100円玉を指ですくいあげ、こそりと笑う。
そしてテーブルに広がるカードを丁寧に集めてた。
不吉なカードも救いのカードも同じように集められ、同じ箱にきちんと収められていった。


「どこ寄り道してた?。」
若い男の口調に少女がたじろぐ。
地下鉄の昇降口の前である。
若い男は無言で少女のランドセルに白い布の袋を取り付けた。
TVアニメのキャラクターがひとつ、目立つところに貼られている。
それは給食着の入る給食袋であった。
しかし 中に入っているのは給食着ではない。 
「全部ちゃんと配るんだぞ」
少女の顔もみずに若い男はいう。
それでも少女はちゃんと頷き返している。
若い男は 給食袋に貼られたキャラクターのカードが5枚ほど入る袋をだした。
おもちゃややコンビニでこどもにむけて売られている、封をきらないと、どのカードがはいっているかわからない、あれだ。
ただ、若い男の持つ袋の封は既に切られている。
「中身の確認の仕方はこうだぞ?」
若い男は開け口を少し膨らませてチラリとのぞいてみせる。
少女がまた生真面目に頷く。
「じゃあ、いってこい。」
渡された地下鉄の周回カードを手に、”給食袋”をぶら下げたランドセルは階段を降りていった。
人気のないホームに轟音とともに 地下鉄はすぐやってくる。
乗り込んだ少女は 乗降口すぐそばの端に座る。
ランドセルは背負ったまま、”給食袋”をひざにのせて。 
乗客は数えるほどで、何度も扉だけが開閉し、忘れた頃に客がぽつりとのりこみ、またそっと降りる。
地下鉄はそれを繰り返す。
少女はこの路線の最終駅まで乗る。
そして最終駅についたらホームを渡り、もう片方のの最終駅まで戻る。
少女はそれを繰り返す。
それが 彼女のいうところの”カレシのてつだい”だから。



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