占い師が2杯目のお茶を掌で楽しんでいたとき、ドアが軋み若い女の首が突っ込んできた。
「占い、いくらですか。」艶々した頬を持つその首がいう。
眉はマニキュアで、唇はリップクリームで彩られているらしい。
けれど開かれた眼はどこかぎこちなく宙に留まっている。 
「30分間まで千円です。その間なら占い事はいくつでも構いません。」
占い師は答えた。
すると首だけの女は「200円分だけってダメですか?」と聞いてきた。 
「イマ200円しかない。」
ふむ、と占い師は少し宙を見てから
「200円分というと、・・・約6分間ですねぇ」と呟いた。
首だけの女の眼がじっと占い師をみてる。
「いいですよ。どうぞ」
首だけ女が顔一杯で笑った。
安心したのか女は扉を完全に開き、全身ごと中に入ってきた。
が、すぐに立ち止まる。
時計にあんぐりしているらしい。
ぽっちゃりともひょろりともいえない、なんともアンバランスな体型をしている。
その理由はすぐわかった。
長袖のTシャツにラメ入りのロゴとりんごがプリントされたジーンズを履き、足元はスニーカー。
そして背中にランドセル。
女は少女だった。

「さあ、お茶をどうぞ。」
占い師は少女のためのお茶をいれると、ぽかんと壁を見上げている少女に声をかけた。
少女はあわてて、占い師に向かい合うソファに座ったが、やはり首は傾いてゆく。
眼が時計を追いかけてしまうらしい。
占い師はのんびり待つことにした。

「6分だった・・!」いかにもシマッタと、少女が我に返った。
「まだ占い始めていませんから、大丈夫ですよ。・・お茶、冷めましたか?」
占い師の言葉に今度は少女が「大丈夫。」と答えた。

「お茶でも飲みながら、何を占うか心を決めてください。」
「・・・なんとかティーとかじゃないの?」不思議そうに少女が言う。
「そう、普通の日本茶です。」
占い師は微笑んで見せる。
「占って欲しいことはもう決まってる。」
そういいながらも、少女はお茶を飲んだ。
「では こちらへどうぞ。」
占い師は少女を奥の部屋へと促した。

奥の部屋には水晶玉やら筮竹やら、いかにも占い師らしい道具が雑然と置かれている。
すべて”先代”の道具だった。 
十二分に広いテーブルの片側に座り、占い師はテーブルの引き出しから、カードを取り出した。
「では 始めましょう」
占い師は背後の、幼児の背丈くらいはある砂時計をひっくり返した。
飾りの施されていない木枠で支えられたガラスの中を、紫とも蒼ともつかない粒々が音もなく落ちてゆく。

「占いごとはなんですか」
テーブルに広げたカードを両の掌で混ぜながら占い師が問う。
少女はまず口を開き、眼を宙に探らせながら、文節を唐突に並べていった。
そして占い師は 少女の文節を理解するより、笑い出そうとする口元を押さえ込むのに神経を使わねばならなかった。

”自分には、大学生になるみんなにはヒミツの”カレシ”がいて、”カレシ”の手伝いもしているのだけれど、”カレシ”の自分へのキモチがわからないし、このまま2人のカンケイをつづけていいのかもわからなくなってきたし、私たちはどうなるのだろう”要約すればそんなところの” 占いごと”はほぼ予測通りで、まっとうな大人なら、カードをひかずとも即座に未来が占える。
それでも占い師は占い師であったから カードを開いていった
彷徨う愚か者やひっくり返った月の女神やらが並んでゆく。
「あなたのカレシは、あまり”剛(つよ)い人”ではないようですね。。」
占い師が言うと、少女は一人前なため息まじりで、うなづいてみせた。
「・・・そうだとおもう。」 
占い師は、また努力して笑みをこらえる。
そして 全ての来客に問いかける質問を、少女にも投げかけた。
「で、あなたは”どうしたい”のですか?」 
「・・どうしたらいいの?」
全ての来客と同様の問いを、少女も口にした。
「未来がでてるんでしょ?」
占い師は少女を優しく見つめて言った。
「未来ね、”変わる”んですよ。」
今度は少女が占い師をじっと見つめた。
少女の、少女のまんまの瞳で。
 「例えば、ここに出てるのが”未来”を現わすカードなんですが、」 
占い師は一枚のカードを指してつづける。
水を移し替える女性が描かれているカードだった。
「”なにか”が動けば、これもまたすぐ別のカードに変わるんです」
少女はじっと占い師を見つめる。

砂時計のガラスの中、粒々は音もなく落ち続けている。



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