「ハガキついたんだ。」
妹は屈託なく嬉しそうにいいました。
「そうよちゃんとついたわよ、」
私は答えました。
「随分経ったから、引っ越したかなァとも想ってたの。」
「そのまんま 同じところに居るわよ。電話番号も、一緒のままよ。」
「ああ、そうね。電話すればよかった。」
「そうよ、電話しなさいよ、苦労したのよ、ここまで来るの」
「そうねぇ。。電話にすればよかったのよねぇ。」
「そうよ。それにちゃんと書いておきなさいよぉ。
なかったわよ。あなたの電話番号」
「ああ、本当だ。」

妹は相変わらずでした。
私にしても怒る気は もともとなかったのですが。
妹は小さなやかんでお湯を沸かしなおして、
お茶をいれてくれました。
台所と一緒にある食卓の椅子に座って私たちは話しました。
次々と忘れていた話が湧き出てきて、
話して話して、笑いました。
実際に妹といたころは、私は妹をことさらからかったり、
嘲ったりばかりしてしまい、妹は妹で、
わざわざつっかかる物言いしかしてこなかったので、
とてもとても仲がよいとはいえない姉妹でした。
けれど、私たちは唯一私たちがとても仲良く互いに心地よく遊べる
”秘密の遊び”を持っていたのです。

夜の8時にもなると私たちは並べた布団に寝かされました。
そして寝なさいよ、のコトバを残して母は部屋の明かりを消し、
ふすまの向こうに行ってしまいます。
ふすまの向こうの気配をうかがってから、声を殺して、
私は”あそぼ。”と隣の布団にいる妹を誘います。
すると妹が振り向いて、私たちのあそびははじまるのです。

それは見えない世界での冒険ごっこでした。
お話を創るのはいつも妹でした。
まるでどこかに台本があるかのように、
妹は私に”本日の世界と設定”を伝え、
よどみなくセリフを連ねてゆきました。
そのときによって妹は男の子になったり、女の子になったりしました。
妖精やらヒトでないものにもなりました。
そして妹は主人公だけではなく口調をかえて脇役も全部こなしてました。
オトナの男も女も老人も、もちろん敵役たちも全部です。
妹は次々と流れるセリフだけでいつもちがうお話を創るのです。
私はいつも妹が(主人公が)連れている"犬”でした。
これは当時なぜか私は"犬”になりたかったのと、
犬はセリフを考えなくてよいので、
(お話を聞いた感情にあわせて「わんわん」といえばよかったので)
妹に頼んでいつも犬の役にしてもらっていたせいもあるのです。 

私たちは空をとんだり、地に潜ったりしました。
見知らぬ街にも行くし、未知の星にもいきました。
宇宙人にも原始人にも、異世界の住人にも楽々なれました。
そしてそのまま2人とも眠ってしまうとても幸福な遊びでした。
眠ってしまうと、妹はそのままその世界の中にはいっていけたようです。
私にはそれはできませんでした。
おはなしの世界は聞くばかりで、見たり触れたり
香りを感じたりは、私にはできませんでした。
それでも聞くだけでもとても楽しかったので、
私は毎晩のように妹を誘いました。
それがいつのころからか妹は「ひとりで遊ぶ」といって、
布団の中から呼んでも振り向いてくれなくなりました。
そして私たちの遊びは終わり、おはなしが作れない私は、
ただただおとなに近づいていくだけになったのです。 

久しぶりの妹との会話は、
あの布団の中の世界を十分思い出させました。
いつしか私は幼い私のようにわくわくしていました。
そして妹は何度もお茶を沸かして、私に注いでくれました。
 

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