『きょうと・・・きょうと・・』

いきなり聞こえたアナウンスに私はあわてました。
どうやら また居眠りしていたようです。

ホームに下りてひとつ息をつきました。
空はもう暗くなっていました。
乗り換えのホームはわかりません。
どちらの方向へ向いたらいいのかもわかりません。
とりあえず人が流れる方向について行こうとしましたが、
あまりながく座ったせいか、足がぎくしゃくして
まるで歩き方を忘れたようでした。
通りすがる人にはさぞおかしな光景にみえたでしょう。

直に私はおいて行かれました。
黒い硝子でできているような駅の中で、
人々はみな影になったかのようでした。 
階段を見上げて立ち止まっいると私のすぐ横を、
箒で小さなごみたちをひょいひょいと塵取りに放り込みながら、
駅員さんが通ってゆきます。

私は呼び止めて、渡された切符をみせてみました。

「26番ホームですね。・・・階段をあがって左にまがってください。」

私はお礼をいって階段をあがりかけました。

「その駅は普通しかとまりません。ご注意ください」

階段を登りきって曲がると、そこはホームからホームへの
連絡通路のようでした。
照明たちが華やかにともり、お菓子やら焼きあがったパンやら、
いろいろな店がならんでいました。
空腹だった私は、できれば座って食事がとれる店がよかったのですが、
立ち売りの店ばかりでした。
連絡通路なのだから当然かもしれません。
お弁当やさんには押し寿司の類しか残ってはいず、
立ち食いのうどんやにはいるのも億劫な気がしたので、
サンドイッチとお水を買いました。

26番ホームはとても端の方にあり、小さめでヒトは誰もいませんでした。
私は普通電車がくるのを待ちました。
そんなに長くはまたされませんでした。
何人かが降りた車両に私は乗りました。
車内はとても空いていました。

4人掛けの木の席のひとつに座って窓の外をみてました。
動き出してすぐに窓の外は真っ暗になり、やがてぽつりぽつりと
小さな光がかろうじてあるる程度になっていきました。
私は少し安心してサンドイッチを食べました。
各駅停車のはずなのに、駅らしいものは一向に現れてはこず、
電車は静かに進むばかりでした。

妹は、私が二十歳を少し過ぎた頃に、
煙りのように消えてしまっていました。
何の前触れも知らせもなく、ある日帰ってこなかったのです。
父や母は随分手を尽くし、あらゆるヒトに頼んで、
何年も探したようなのですが、とうとう見つかりませんでした。
時はそのまま流れたので、今はもう父も母もおりません。

私は手元の切符を眺めてみました。
駅名は「珠王河」となっています。
妹からのハガキにも書かれていました。
これはなんとよむのだろう。。
あれこれ想っているうちに、私はまた眠ってしまったようです。


「たまおおが。たまおおがです。」

聞こえてきた声に、ああそう読むのか、と私はうなづきました。
そして次の瞬間あわてて 飛び起きました。

電車は駅に止まっていたのです。

 

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