窓の外は、山の中です、

さすがにお尻が痛くなってきました。
昼はもうとっくに過ぎたのでしょう。  
快速では車内販売がないので、少し困りました。
どこか大きめの駅についたら、いったん降りて何か買おうか
と想ったのですが、着くのは無人のような駅ばかりなのです。

どうしようもないので、あきらめて待つことにしました。
そのうちにどうやら私は眠ってしまったようでした。

そこはほの暗い6畳間でした。
赤い服をきせられた私は、丸い座卓のマエに座って
国語の教科書を声を出して読まされていました。
きっと横には母が正座していたのでしょう。
私は毎日そうやって学校のおさらいをさせられていたのです。
私の正面には妹が、あごを座卓に乗せる格好で、私をみていました。
私がそのような格好をしていると叱られたのですが、
なぜか妹は誰にも叱られませんでした。
幼い私の声が止まりました。
そして、隣から伝わる母の強張る気配に、
幼い私は身をすくめていました。
そのとき母より先に妹の口が開きました。
「”そうだわ。おむかいのはしもとさんにそうだんしてみましょう。
とわたしはかんがえました。”よ。」
母は苦笑したようです。
そして妹の名を呼び、あなたは黙ってらっしゃい、といいました。
あごを座卓から離した妹の顔が、するすると
私の目の前から沈んでゆきました。
妹は寝転んだらしいです。
足で畳を打つ音が聞こえてきました。
ぱたん、  ぱたん、   ぱたん、

やっぱり妹は叱られませんでした。
”なぜ 妹は叱られないんだろう。”  
夢の中の私はそうかんがえていました。  
そして繰り返されるぱたん、ぱたんを聞いていました。

そこで私は眼が覚めました。

山を抜けてしまったらしく、窓の外にはまた街が広がっていました。
夢の中の妹は青い服を着せられていました。
私がいつも赤い服だったように
なぜか妹にはいつも青い服でした。
母は私には赤が似合うと決め付けて譲らず、服はおろか
靴もカバンも持ち物もすべて赤が与えられました。
けれど、さして器量もよくなく、むくむくとした体系の私に
赤が似合うはずはありません。
鏡の中の赤い私は、ただただ滑稽という
言葉そのものでしかありませんでした。
そして赤は私の大嫌いな色になっていきました。

いまだに赤い服を着ることはできません。
同じ理由で妹には青でした。
けれど私とは違い、妹には青がよく似合っているように思えました。
青い服を着た妹は、ガラスケースの中のお人形さんのようにみえました。
妹も青は気に入ったようでした。
青が自分の色だと受け入れていたようです。
赤色と青色があれば、それがキャンディのようなお菓子であっても、
色だけで青いほうに手を伸ばしていました。

すっかり忘れていた妹との些細な事々を、
私は徐々に思い出していました。  
窓からさす光はどんどん黄色味を帯びてきて、
街並みはまただんだん家が少なくなり、
また山へと向かうようです。

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