その夜、午後の11時も過ぎる頃、私の部屋は常連たちが集い

かなりニギヤカだった。

話題が、なぜかゆでたまごの食べ方の定義になった頃、いつの間に来たのか、

ららも参加していた。

先端に塩などつけてそこからだろうというのが大半の意見だったのだが、

面白かったのは、ららが先端を尻尾といってゆずらなかったことだ。

尻尾からがぶがぶっと一気にいくべきだ、と主張して譲らない。

その言い方は、みなにフラッシュアニメによるタマゴ型の怪獣を

食べるオンナノコの姿を連想させ、笑わせた。

ららに煽動されたか、それぞれが次々とどうでもいい問題に

とんでもない解説・解釈をつける脳内遊びが始まり、かなり盛り上がった。

(いずれの問題でも、最右翼候補を飛び出させてしまうのは、やはりららだったのだが)

楽しい夜ははやくに更ける。

ぽつぽつと一人去り、二人去り、部屋の空気が落ち着いてくる。

一人が楽しかったねの言葉のあとに、、このまま世から消え去りたいという

ようなことをつぶやく。

けれど誰も驚いたりはしない。

まぁ 彼女の定番のようなものだからだ。

別れの時の気配が寂しいのだろう。

彼女のような気質のものにはよくあることで、

ネットの住人には案外多数派かもしれない。

儀式のように定文の暖かい言葉というものを打ち込んでやればいいだけなのだ。

残るそれぞれは それぞれにきちんと心得ていて、それぞれの役割のセリフを

順番に打ち込んでやっている。

ところが、ららが予定されていなかったセリフを打った。

「夜明けの晩につうべったらいいんだよ。」

その場の空気が空洞化する。

「・・・つうべるって?」

先の女性がすがるように吐く。

私が説明を引き継いた。

「いや、まぁ・・野球とかのスライディングみたいな動作なんだ。」

「そう、滑り込むのね。・・・どこに?」

どこに・・・?

一同の言葉が失われてゆく。

ららは知らん顔している。

「”うしろの正面 だぁれ”ってか?おいおい、ホラーはごめんだぜ」

緊張に耐え切れなかった一人が笑いで切り裂こうとした。

何人かが救われたように同調し、空気が緩んでいく。

私もほっとしたひとりだ。

ふふふ とららが笑った。

先の女性がにこやかに「おやすみ」と接続を断つと、

とにかく”今日の役”を無事に終わらせたみなは、安心して帰っていった。 

ららが残った。

2時をかなり過ぎていた。

「怒った?」

その質問は全く意外だった。

「全然。なんで?」

「うん。・・・・ららは少し喋りすぎたかも」

ららはしょげているらしい。

ほのあたたかいぬくもりが、緩やかに立ち昇っている。

私の内側で何年かぶりに、消えていた灯りのひとつが点ったようだ。

「大丈夫さ。みんな喜んでいたし。少しもしくじってないよ。」

「そうかなぁ・・」

「ららは今日もうまくやってた。間違いない。」

本当に何年かぶりに私の指は私の心と一体となり、

脳を通らず言葉を打ち込んでいた。

「しくじってたっていいんだ。ららが居るとそれだけで嬉しい。」

ららは微笑んだようだった。

「もう、おやすみ。らら。じきに、夜明けの晩が来る」

「うん。そうする。」

ららが立ち上がる。

「おやすみ。またね。」

ららがゆっくりと回線を閉じる。

ららが去った後、私は静かに私が打った言葉を読み返し、恥ずかしくなる。

夜明けの晩が来る前に、私も眠るほうがよさそうだ。




続きを読む    もどる