16歳のらら
それは、夜明けの晩のことだった。
その日、私はいささかやる気が失せていて、部屋も仕舞わないまま
ずるずるとだらしなく、DJたちが送ってよこす音楽を聴いていた。
はじまりと終わりがないラップのリズムに乗る、これまた始まりも終わりもな
く、果てることもない絵文字の会話を眺めながら、潔く布団に入るかこのまま
明日へ繰り込むか決められなかった(脳ミソが固まっていたのだ)
そのとき、入室音が鳴って、それがやってきた。
「
コンバンワ」
それはつるつるつうべって、私の部屋に入ってくると、そのまましゃがみこんで
床をみている。
名前をきくとららだと答え、年を聞くと16だという。
どこに住んでるか、どうしてきたのかなどと、聞こうとしてやめた。
ダルいことはやめよう。
こんな時間にうろつく理由など聞くほどの価値はない。
ほっといて勝手に喋りだすのなら、それでいい。
嘘や、でっち上げや、垂れ流しでかまわない。
所詮、実体ではないのだから。
もともとネットの中をサーフィンしてる輩は8割がたロクなのでないが、
特にこのいわゆる夜明けの晩の時刻にうろつく輩は ロクなのがない。
なぜ言い切れるかって?
ネットの中は、現実に対応しきれない輩にとても居心地のいい世界だ。
それでもなんとか現実に対応しなければならないと自己に鞭打ち
叱咤激励する者は、他の時間はウロついていても、コノ時間は努力して眠
る。でないと明日の、現実社会という、それぞれのバスにのれなくなるのだ。
コノ時間にウロつく輩は、眠る努力をも放棄してるヤツラか、或いは、それ
すら他者に依存してるんだな。
”ダレカガアタシヲ眠ラセテクレルベキダ”
眠らせてくれるべきは、理解してくれるべきにも置き換えられるかもな。
「ナニ してるの?」
ららが喋った。
うっかりしてた。居たんだった。さて、どのぐらい黙ってたんだろう。
「音楽 聴いてる。」
あわてた私はつい本当のことを言ってしまった。
「CD?」
「
いや、ラジオみたいなもんなんだ。」
ららはCJ放送なるものを知らなかった。
若干まだうろたえてたのと説明する気力がなかったので、私はららを私が
二窓しているラジオ部屋へ連れて行った。
とうのムカシにラップは終わり、なぜかSTAND By Meなどかかっていたが
絵文字の会話が果てることはない。
それでも連中は気のいいヤツラなので、こころよくららにもアンプを与え、
(ららはアンプも持っていなかった)サーバーにいれてくれた。
「聞こえた♪」
ららが笑った。
ららと2人、カビ臭いオールディズに身をゆだね、カラフルな絵文字の波
を眺めてた。
私は何も言わなかったが、それはららも同様だった。
音がポチンときれて、DJが交代するという。
ソレが合図となったかのように、バイバイを示す絵文字がざらざらと流れ、
何人かがプツプツと接続を断っていった。
「ららも モウ寝ます」
ららが言った。
「みなさん どうもありがとう。 またね」
絵文字の列は、ざらざらと、ららを送る言葉に変わっていく。
ららの接続が切れた。私も連中に別れを告げて、部屋仕舞いに戻った。
時刻は5時にちかくなり、夜明けの晩は終わってた。
部屋にはららの文字が残されていた。
「バイバイ またね」
ようやく私も潔く布団にはいることができそうだ。
続きを読む