そこは遠かった。

 徒歩が主な手段のナオの行動範囲をはるかに超えていた。

 それでもすーちゃんはまだ進んでゆく。

 山の端に差し掛かり、道こそ舗装されているものの、通る車などしばらく前から全くない。

 伸び放題の木々の葉がかぶさってくる。

 そして、ガードレールの下にこっそり町が見えた。


 「ここなんだ。」

 ようやくすーちゃんは止まった。

 いずれ紅葉するだろう木々に隠れるように、製薬会社の研究施設が建っていた。

 門は開いていて、車でそのまま乗り込み、駐車場を経て玄関に行き着くようになっている。ただヒトの気配はなかった。

 「こっちだよ。」

 降りて自転車を押しながら、すーちゃんは門から続く囲いに沿って曲がって行く。

 “黙って入っていいのかなぁ。”ナオは不安になったが、すーちゃんはどんどん行ってしまう。

 自転車を押しながらついていくしかなかった。

 「ここだよ」

 それは、こっそりと仕組まれたような裏道だった。

 一応両側通行の道路だが、車はおろかヒトの気配があるはずもない。

 舗装状況は新しくはなさそうなのに傷んでる様子もない道が、山肌に沿った直滑降のコースのように、研究施設から密かに伸びて真下にくだってゆく。

 オマケに中途で鋭角に近い右カーブを描き、さらに下っている。


 「スッゲェキモチいいんだ。」
 すーちゃんは全身がゾクゾクしているらしい。

 「じゃ、先にいってるよ」

 待ちきれないのか、立ちこぎで助走をつけてくだっていってしまった。
 
 イヤッホゥゥと歓声を上げて。
 
 ナオは天を仰いで考えた。

 ここまできてしまったら、ついていかないと帰れない。
 
 既に自分だけでは帰り道のわかる範囲でないのだ。
 
 この道を下る他ないらしい。
 
 アタシの技術では多分転ぶだろう。左腕はズルズルっと剥けてしまうかもなぁ。
 
 どのくらい痛いだろうか?何日くらい痛むだろうか?3日かなぁ。。いや1週間くらいかかるかも・・
 
 不思議なのは、心は静かだったことだ。
 
 他に道はないのだ。
 
 痛いのをガマンしよう。しょうがない。
 
 ナオは自転車にまたがりペダルを踏んだ。
 
 自転車はすぐに加速する。
 
 風を受けながら、スカートをはいてきたことも思い出した。ああ。左足もあきらめないと。

 それは永遠だったかもしれないし、一瞬だったかもしれない。

 見るとナオの隣ですーちゃんは小躍りしてた。

 ナオの自転車は、急速で下りながら右カーブを切り、さらに下って、下って、そして倒れなかったのだ。 

 ・・・ああ。降りたんだな。

 ナオの心は、やっぱり静かだった。すーちゃんがナオの分以上に喜んでた。
  

 家につく頃、周囲は真っ暗だった。

  「また、いこうな。」

 ナオの家の前でそういって、すーちゃんは自分の家に帰っていった。

 けれど「また」は、なかった。









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