中休みだったか昼休みだったかは覚えていない。 丁度窓際の席だったナオは、自分の席から校庭を眺めていた。友達のできないナオのいつもの休み時間の過ごし方だった。 他にも何人かは教室に残ってて、それぞれでおしゃべりなんかしていた。窓の桟にもたれて、ナオのように校庭を眺めている子もいた。 その日の校庭をすーちゃんも眺めていた。 校庭では隣のクラスの男子たちがサッカーをしていた。 「学校帰ってから何してる?」 いきなりすーちゃんがいった。 自分に言われたとナオが気付くまで、少し時間がかかった。 「・・なんにもしてない。」ナオは正直に答えていた。 「そっちは?」 「自転車乗ってる。」 晴れ晴れとしたカオですーちゃんはいった。 「・・・1人で?」「うん。キモチいいよ」 「・・・あたしね、自転車乗れないんだ。」 思わずナオは話してしまった。それはとても素直な声だっただろう。 「へぇ?」すーちゃんは不思議そうな顔をしたかもしれない。 「うん。持ってはいるんだけどね。」 素直に話してる自分にナオが一番驚いていた。なぜかその場から消えたくなったことを覚えている。 そうしてチャイムに助けられた。 ところが、学校が終わるとすーちゃんがナオの家にやってきた。 「遊ぼう。」 すーちゃんは、にこにこしながら自転車に乗ってきた。そしていとも簡単に言った。 「乗り方、教える。」 ナオは慄いた。・・・ とんでもない。自転車なんて! なんでわざわざ好き好んで、痛い思いや怖い思いをしなくちゃならないの・・・。 いつもなら一気にまくしたてられるそのセリフが、なぜか喉の奥で凍り付いてた。 なぜ言われるままに自転車を持ち出したのかは、イマだにわからない。 すーちゃんがあんまりまっすぐ、にこにこやって来たからなのだろうか。 すーちゃんはナオの22インチの自転車(買ってもらったときは小学生だったのだ)のタイヤをちょっと握って、「空気入れって、ある?」と聞く。 そして、空気入れを受け取ると、ちょこちょこっとナオの自転車をいじり、すーちゃんはいった。 「これでOK」 「じゃ、乗ってみ。」 観念したナオはサドルにまたがり、ペダルを踏み込んだ。 と、ハンドルこそ大きく左右に触れるものの、倒れずに自転車が前に進む。 「なぁんだ。乗れるじゃないか」 歓喜の声を上げてすーちゃんは、ひらりと自分の自転車にまたがると、 「じゃ。ついてきて。」と立ちこぎ姿勢のまま振り向むき、呆然と停止してるナオに、「だいじょうぶ。ゆっくり行くから。」と告げる。 ・・・そーゆうことじゃァないんだけど などどぼんやり思うナオの耳に、風に告げるようなすーちゃんの声が届いてきた。 「すごくキモチのいい場所があるんだ。」 |